日本のLARPの戦闘シーンの歴史とこれからについて

日本のLARPの戦闘シーンの歴史とこれからについて

体験型LARP普及団体CLOSS
星屑

今般、日本で「LARP」という文化に触れる機会が増加したことにより、その要素を踏まえて表現する方々が増え、より多くの方々に広がるといった循環がみられるようになりました。LARPという語句が日本語圏下にインターネット上で幾らか見られるようになったのは2012年でしたが、その頃から比べると目覚ましいものがあり、多くの方々の関わりを得られる中で育まれた土壌であると感じ、感謝の念に尽きません。

一方、LARPという文化の中で、その参加者が扮するキャラクターが行う戦闘の演技について、様々な価値観、見解、活用、立場を持つ方々がそれぞれに創造的な取り組みを思い描き、それを実施する機会を作り出していらっしゃいます。

これからも、様々な形で多様な価値観に基づいたLARPの語句を交えて表現される、「戦闘」という言葉が、この記事を読むかもしれない方々の目にとまることでしょう。

これから書く文章は、あくまでもそうした方々に向けて「多様な見方を持つ一助になれたらよいな」と、一つの「戦闘」のあり方を提唱している男が感じてつぶやく物です。

主観が強い文章になるかと思いますので、あくまでも「こういう考え方もあるんだな」と頭の片隅においた上で、ご笑覧ください。

第一話「演技戦闘」という言葉が生まれた経緯

2013年。レイムーンLARPというLARPサークルの立ち上げに際して、ファンタジー世界を舞台にした冒険者と呼ばれるなんでも屋たちが、お金を貰う代わりに様々な依頼を解決に導く冒険活劇-テーブルトークRPGの名作、ソードワールドRPG(清松みゆき/グループSNE 著作)の世界観が大好きだった私たち(星屑と雛咲)は、これまで自分たちの想像の中だけで留まらせていたファンタジー世界を現実世界に顕現すべく、準備を進めていました。

LARPを行うにあたって使用したルールは、パトリア・ソーリス(*1)。ドイツ人のニコ・シュタールベルク氏と杉浦敦崇氏によって生み出された日本語で書かれたルールブックでした。ちなみに、そのバージョンは0.9。しかしながら、この頃の私にとっては唯一のLARPのルールであり、バイブルでした。

2013年の年始から様々に準備を始める中で、シナリオの作成、小道具の準備、なによりサークルの結成などなど、慌ただしく時間が過ぎゆく中、その中でも大切な事柄を構築する必要がありました。

それは、ストーリーLARPとして、物語を進めていく中で発生する武力の衝突場面を描くために行われる「戦闘行為」をどのように行うべきかというもの。

今でこそ、様々な人たちが多様な価値観と思いを胸に取り組む「LARPとしての戦闘」ですが、この時の我々には「何が正しくて、何が間違いなのか」すらハッキリとはわからない。
そんな暗闇を歩くような状況だったのです。

加えて、雛咲は運動音痴を現在においても自認しているほど、かつ演じるという様々な事柄についても素人でしたし、私自身も特段に剣道や刀剣術などの指導を誰かに受けたわけではなく、せいぜい学生時代に僅かな期間行った時代物の演劇に演者として関わった際に、殺陣の稽古を学生同士で行った程度の経験しか持ち合わせていませんでした。

そのような中、私が参考としたのは、ご存知パトリア・ソーリスに書かれている「戦闘」の項目でした。

パトリア・ソーリスには、今日においてもLARP中の戦闘場面において「安全のために」気をつけなければならないポイントが多数記載されています。

以下に列挙してみましょう。


日本語で書かれた初めてのLARPルール。パトリア・ソーリスにおける、戦闘の「安全ルール」

◇常にGMに従う

パトリア・ソーリスは、ストーリーLARPを行うことを目的にしたルールのため、GMというLARP全体の進行や参加者の安全管理、イベント進行の責任をもった存在がいます。
戦闘においては、GMは安全管理上の指示をする事ができる事になっています。

これは、GMを「イベントの主催者」と読み替えることもできるでしょう。

また、ここでのGMはイベントに使用されるLARP武器や防具を点検し、安全性を確認する立場でもあります。安全が認められなかった物は、そのイベントに使う事ができません。

◇安全性を自主的にチェック

一度安全性をGMに確認されたとしても、道具の使用者はその安全性を折に触れて自分で確認する事が求められています。

◇頭、手、股間への攻撃の禁止

いわゆる人体の急所への攻撃を禁止しています。また、不慮の事故を予防するために、急所を保護するために例えば手を手袋で保護することなどを推奨しています。

◇突きの禁止

LARP武器の構造上、突き刺し行為をした際に危険な場合があることから、それを禁止しています。

◇LARP武器を人に強く打ち付けることの注意

人に対して強く打ち付けることは危険であることを注意しています。危険性を少なくするため、振る速度を遅くするように書かれています。

◇格闘の禁止

体に触れるのは、安全を確認された武器だけ。とされています。魔法などで触れる際にも、相手を押すのはダメだとされています。

◇自分の周囲の危険に常に注意を向けるように勧告

他者や周囲の物品に目を配り、自分も他人も危険な状況にあると判断したら、行為を止めて安全を確保する事を求めています。


以上が、パトリア・ソーリスに書かれている「戦闘のための安全ルール」であると私は解釈しました。

2020年の現在においても、このパトリア・ソーリスが日本に伝えた「直接人体に武器をヒットさせて判定する」物理判定型の戦闘方法は、「ダイレクトコンタクトコンバットシステム(DCS)=演技戦闘/エピック・オブ・プレアデス(星屑/CLOSS)」と表記されるストーリーLARP用の戦闘ルールに、その系譜を引き継いでいます。

時計の針を、2013年に戻しましょう。

この時の私が注目したのは「安全」というルールブック内の一語でした。実際にプレイヤーとして目白にある「キャッスル・ティンタジェル」で「カーミニアLARP」というイベント企画が行われていた中で、著者である二コ・シュタールベルク氏から直接、戦闘の行い方などの薫陶を受けた時も、何度も耳にした一語だったからです。

LARPの戦闘場面は、参加者同士が安全に気をつけて行わなければならない。これは、イベントの主催を行う一員である立場になった時、より重要なものとして私の中にありました。

同時に、パトリア・ソーリスのルールはドイツで行われているLARPを下地に書き進められたものであり、当時の日本の状況に合わせて独断でルールの解釈を変更する必要がありました。


独自解釈はどのようなものであったか

1:『禁止行為は、ヒット無効』という解釈の導入

LARPのストーリー中に戦闘をする時、いくらキャラクターとして戦っているとは言え、つい熱くなったり、うっかりしたりして、禁止行為をしてしまう場合が想定されました。ここで、ヒットについてを無効にする事で「行為自体の無意味化」を図りました。

これについては、どれだけ効果があったかは判別することは難しいですが「禁止行為を行っても有利にならず、かえって不利になる」事は、「何が禁止行為であるのか」という注意力を初めてルールを理解しようとする人たちに抱いてもらいやすかったのではないかと考えています。

2:『首とつくものから先は、禁止部位』という解釈の導入

前述のパトリア・ソーリスには足に関する記述はありませんでしたが、『足首から先も、禁止部位』という項目を増やしました。

というのも、まず人に説明する上で『首と名のつくところから先は、打撃禁止部位です。あと股間』というだけで済むため、楽になるから。と言うこともさることながら、意図して足先を狙うことで、危険部位である頭が低位置にある姿勢になることを限定的表現にしたいから。という思いがありました。

ここはどうも誤解を招きやすい事なのであえて述べますが、『頭を下げる表現を禁止するのではない。』ところがポイント。キャラクターを演じる上で、様々な戦闘姿勢をとり、演じることを表現する事を包摂しながら、それでも不慮の事故は可能な限り起こらないようにルールを理解する人たちに意識して欲しい。そうした思いが綯い交ぜになって導入した解釈でした。

3:『ヒットに有効な打撃の振り幅』という概念の導入

単に、ヒットをさせるためであれば、武器を振る距離を最小限にして連打する手段をとることができます。実際的な戦闘の場面においては有効な場合であっても、そのような行為ばかりになってしまう事で危険性や演技性が損なわれると考え、「攻撃された側がヒットと判断する、有効な武器が弧を描く振り幅」を「最低限武器の長さの弧を描くように行うこと」と規定しました。

4:『痛みを感じたら、そのヒットは無効』という概念の導入

武器を人に強く当ててはいけない。という部分を受けて「なら、痛かったらヒットは無効にしてしまえば、やらなくなるよね」という安直な考え方の元、導入した概念でした。

安直な考えではありましたが実際的に「痛みを与える打撃」について、避けるようにする。相手に痛みを与えないように配慮して武器の振り方や形状、重量を工夫する。そういった工夫を多く将来に生み出す事になったとも感じています。

5:「演技戦闘」という概念の形成

パトリア・ソーリスの戦闘ルールに加え、導入した解釈を統合して説明したLARP戦闘時の行い方やそのためのルール概念を、「LARP上で起こる戦闘的解決を必要とする場面で、その演出をプレイヤーのそれぞれが安全に配慮しながら、かつ浪漫を体現する形で表現・演技するための手法」と位置づけました。

LARPという文化が、ロールプレイング(今の自分ではない誰かの模倣)を行うモノと解釈したとき、この時の私は「つまり、『安全に・戦闘を・演技する手法』があれば、プレイヤーはのびのびとLARPの物語の中で、キャラクターたちが戦闘する様子を表現できる」そのように考えたのです。


以上のような経緯を辿り、2013年5月に開催されたレイムーンLARPの第1回定例会において、この戦闘のためのルール・概念を「演技戦闘」と呼称するに至りました。

今日の「ストーリーLARP」や「コンバットLARP」といったカテゴリー内で行われる「演技戦闘」やそれに類似した名称で呼ばれるもの、特に「寸止めに近い形で人に当てる」「振り切らないように当てる」「相手に痛みを与えないように当てる」といった「ソフトヒット」で行う戦闘の仕方の始まりは、このようなものであったのです。

第二話も、鋭意執筆中! お楽しみに!!

写真 : ほしくず堂 @raywell

*1: http://laymun.minim.ne.jp/laymun/img/pdf/ps_basic.pdf

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